『一億三千万人のための小説教室』
先日のウォーキングの途中、ユリカモメのユリちゃんに出会う。日差しは温かいものの冷たい北風に吹いていた。安濃川に架かる歩行者専用の橋を渡る。向こうの方の欄干に数羽の鳥が止まっているのが袂からも見えた。風に向かって飛んでは流されるのを繰り返している鳥もいる。遊んでいるようだ。橋の両側の川面に目を移すと、数十羽ほどが漂い浮かんでいた。だんだんと橋の中央へ進んで行く。どうせパッと飛び立ってしまうのだろうと思いながら近づいていく。10メートルほどの距離になる。案の定ほとんどの鳥は水面に向かって滑降していった。「あれっ、まだ一羽残っているぞ」 5メートルの距離。その鳥だけがまだ止まっている。でもモジモジしているのが分かる。体の向きを変えたりもしている。「鳥の中には優柔不断なのもいるんだ。よし、トッてやるぞ!」と、デジカメで写真に撮る。もう一枚。「あぁ、被写体になることを望んでいたのか」 まだ逃げない。今まで野生の鳥をこんなに近くに見たのはなかったことだ。どうしてなんだろう。この鳥は人懐っこい習性なのか。いつもこの橋の欄干に居てマンウォチングでもしているのか。餌を貰えると期待しているのか。こいつは捕まえに来た人間ではないと信頼してくれているのか。でも少し怯えている様子も見える。鳥の中にも変わったのがいるのだと思う。そしてユリちゃんと名付ける。もう一歩近づくと、やはりさあっと川面へ降りて行ってしまった。そして群れの中に紛れ込み見分けがつかなくなってしまった。